キーシンが描いたラフ3
ローマサンタチェチーリアアカデミーオーケストラが、
ノゼダの指揮でキーシンをソリストに迎えたコンサート。
キーシンがラフマニノフ3番?
ちょっと意外に思いました。
若い頃の彼の演奏は、
恵まれた技巧を前面に押し出すような選曲が多く、
ここ数年で彼の演奏は内面から成熟し、
選曲もブラームスなど内的な表現を必要とするものが多かったから。
それもあって、どんな演奏になるのだろうか?と
ものすごく興味津々でした。
演奏が始まるとへえ〜そう来るか、、、
スロー。
ここ10年のラフ3といえば
若いジェネレーションの凄腕ピアニスト達が
こぞって我はとばかりに速く、
華やかなジェスチャーと共に弾きまくり、
これでもか、これでもかと
パフォーマンスが音楽よりも勝って、
興奮を拐う曲の一つになっている。
現在もそうだと思う。
そこにこの50代になったキーシン氏。
一つ一つを手に取り、
音の響きを聞き聞かせ、
どんなにオケが音量で迫ってきてもピアノが聞こえる。
(↑当たり前みたいなことだと思うなかれ!CDやビデオのものはピアノにマイク当ててるから聞こえるのであって、ホールで実際にオケに被れずピアノ協奏曲弾くのは、本当に難しい。よっぽど指揮者&オケが上手いか、ピアニストの本来の音が届くかどちらかだ/ロマン派以降の作品)
ラフ3は、
実際に勉強した人でないと分からない部分がある。
聞き手に聞こえている音達は
楽譜に書かれてあるほんの数分の1なのです。
本当にめちゃくちゃ音数が多い!
しかも、ほぼ聞こえないくらいメインの音に隠れる。
私も勉強した時、
これ弾く必要あるの?って何度も思い、
その聞こえない部分にどれだけ時間を割いた事か。
キーシン氏の演奏はスローなだけではない。
通常の演奏で中に隠れている音達が
聞こえるではないか⁉️
そして多くのピアニスト達が高々に手を天井に向けて放つそれらは、
ほぼ皆無。
しっかりと音を掴んで離さない。
音が伸びる。
そして歌う。Amabileアマービレである。
そうだった、
ラフマニノフだよ。
技巧がどうであっても
抒情溢れているんだった。
そうすると、
このラフ3の本来持っている美しさが次々と溢れ出て、なんと美しいものか。
そう、これこそ
ロシア音楽。
ロシアンピアニズム。
その大きくて丸みがかった手を見ると
その手は和音をがっしりと包みこみ
大地の、大陸の揺るがなさを表していた。
久しぶりに
ロシア音楽を
ロシアンピアニズムで聴いた。
あまりの凄さにため息と涙が出た。
この演奏が、
何かを伝えてくれることを切に願っている。
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