春に逝く〜巨匠 M.ポリーニ



こんにちは。
音楽家の純子マッサーリア
Junko Massagliaです。



春一番が来たと思ったら
その風と共に
イタリアの今世紀最高のマエストロ
マウリツィオ ポリーニ氏が天に召された。


1942年1月5日生まれ、82歳でした。



私は若い頃、学生の頃は
彼の良さが理解できなかった。


歳を重ね、経験を積んで
ようやくこの偉大な芸術家を
その音楽から感じ、共感できるようになった気がする。




この手から湧き出るその音楽には
”媚び“が一切なく
“甘さ”も
“振れ”も
一切ない。


真に
真摯な音楽のみが流れている。


音楽が商業化していない。
余分な身振りも
余分な表情も
余分な作りも
潔いほど排除されている。



その
音楽のみに全集中している精神性が
音に乗るとき、
言葉にならない芸術がそこに生まれる。



追悼番組でベートーヴェンの最後のソナタ3曲と、C.アッバード指揮下での皇帝が放送された。



興味深かったのは
後期ソナタは数年前のライブ、
皇帝はテレビがまだ白黒時代の若き日。




演奏スタイルも、手の使い方も
若き日に完成されているのが観て取れる。

唯一の違いは
晩年の演奏時には顔の表情が
苦しんでいるところだろうか?

身体的に苦しんでいるわけではなく
音で魂を浄化させるためのような
恍惚とした苦しみの顔、に見える。



こうしてみると
歳をとるって
やはり意味があるな、と思う。



圧倒的なその世界観が終わった時
会場は一瞬静まり返り
その芸術の昇華を体感しているかのようだった。


凄すぎて
涙が溢れてきた。



この人は
天に昇華されたのだ。
彼の“記録物”は見れても
彼の生きた新たな世界は
2度と味わえないだなんて。




でも
それが音楽のみに許される
芸術
なのだ、と思う。


美術は作品が残る。
音楽は
水のように形なく流れてしまう。
でも
頭の中にだけ
その“記憶”が残る芸術だからこそ
それをいつまでも追求したいし
頭の記憶に残る演奏をしたいと思う。



マエストロが演奏以外で
私生活についてや、社交的リップサービスをしなかったように。




Grazie 、Maestro。
安らかに。
ご冥福をお祈りします。




ピアノ弾きの覚書

ピアニスト 純子マッサーリアの覚書き、ひとりごと、演奏会情報など、気ままにつづります。

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